第18話 国境物語その6 空港の関税で白い粉の正体は・・・

アナログカメラの時代、つまりフィルムを使っていた時代には、カメラマンの海外出張は重労働だった。インマルサット(衛星電話)、カラーフィルム写真電送機、フィルム、現像キット、カメラ機材一式、身の回り品(着替えなど)など百キロ前後の荷物と共に移動していた。

インマルサットは携帯用といっても、重さは五十—六十キロ近くもあり、大きさも大型スーツケースほどある。コウモリ傘大のパラボラアンテナが収容されている。フィルムも難物だ。十本、二十本でなく最低でも二百本は持っていった。X線で全てパーになることだってありえた。一度、旧東独のベルリン・シェーネフェルト空港で強烈なX線を浴び、三百本ものフィルムが全て使い物にならなくなったことがある。取材し終えたフィルムを現像して見ると、渦巻状の照射痕が焼きついてしまっていたのだ。

カラーフィルム電送機は精密機械なため手荷物として始終、肩からさげるか手に持って丁寧に扱った。重さは十キロ近くあった。

先進諸国への出張ならばほとんど問題がないのだが、発展途上国の空港は治安もあまりよろしくない上に、荷物運び屋がこれ見よがしやってくる。「ミスター、荷物運ぶのを手伝ってあげるよ」と言っているのだろうか。とても一人で荷物を死守できないので、誰彼となく、勝手に荷物を運び始め、タクシー乗り場まで持っていかれる。トイレで用足しする場合など、ワイヤーのついた錠で取手部分を結び合わせて、入り口付近に置いておくこともあった。

トイレ問題は別として一番やっかいだったのは、現像キットだった。粉タイプと液タイプがあるが、液タイプは航空機への荷物預けが拒否されるため、どうしても粉タイプとなる。

なぜ、粉タイプがやっかいかというと、映画・ドラマに出てくるような白いブツ、そう覚醒剤のように見えてしまうからだ。

入国審査を終えると、税関審査。係官が多くの荷物を一瞥して、愛用していたジュラルミンのケースを開けるように支持してくる。あちゃあ、また変な質問されなければよいがと思うや先に、「この白い粉は?」と聞いてくる。

「えー、あー、それはフィルムの現像するための化学薬品であります」なんて答えると、係官はじっと袋と私の顔色を交互に見つめ、ある時は袋に鼻をつけてクンクン匂いだ

「商売ですか?」と尋ねられる事も多く、その場合、「いやいや、私はプレスで報道カメラマンです」と答えると、大体はあっさりと見逃してくれる。

東南アジアでは一番、ひやひやした。本物のブツ(つまり覚せい剤)を運んでいるのではないかと勘違いされ、不法逮捕されるのではないかなど、頭の中を嫌な考えが駆け回ってしまう。

悪いことをしていたわけではないのだが、最後まで通関に慣れなかった。