第19話 国境物語その7 エジプトの時そば

空港に着いて入国審査、税関の手続きを終えると、その国の通貨に両替しなければならない。

どこの国でもそうだが、空港での両替は率が悪いが、何も持っていないとタクシーにも乗れない。一日分の両替で済まそうと思うのだが、だいたいは日本を飛び出すときには経理部はありがたく大きな紙幣(百ドル札)を用意していてくれる。そうなると両替する金額も半端ではない。

私がよく取材に訪れた国は発展途上国で、国民一人当たりのGDPやGNPは1百二十から三百ドル。そのため出発までに余裕があるときやスケジュールが前々から決まっているときには、前もって小額紙幣を用意してもらった。

エジプトに行ったのは、今のブッシュの父親の正義の戦争「湾岸戦争」の取材の時。イラクがまだ占領していたクエートには入れないし、米軍が待機していたサウジアラビアのビザが取れないため、周辺国を転々としていたのだ。

エジプトの首都カイロには深夜に着いた。入国にはビザが必要だったのだが、空港で収入印紙を買って審査官にパスポートを渡すとスタンプが押され、入国は簡単に認めてくれる。

問題はエジプトの現地通過、ポンドがなかったことだ。こんな夜遅くでは空港の両替もないだろうと思っていたら、なんと国営銀行の窓口が開いている。ラッキーと思い、高額紙幣の百米ドルを交換しようと窓口の男性に手渡した。

相手は偽札かどうか、紙幣を裏表にしたり、透かして見たりして丹念にしらべることもなく、「オッケー、ミスター。リョウガエ、ダイジョウブ」という風に、声を出しながらこれまたエジプトポンドの高額紙幣を目の前においていってくれた。

最初は?と思って、窓口の男性の口に出す英語を(といっても数字だが)よく聞こうと集中した。

ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト、ナインとまで数え上げて一山作ってから、さらに、ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト、ナインと数え始めた。

おややあ?どこにテン(十)があるのと思ったので、「アナタ、テン(十) ガ ナイヨ」とこれまた片言の英語で訴えた。

すると窓口の人のよさそうな男性は「オー、ミスター、ソーリー、ソーリー」と言ってから、目の前の札の山を崩して再び、カウントし始めてくれた。

ところがである。また、ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト、ナインで終わるのだ。

私はニコニコしながら、もう一度、「ドコ、テン(十) ハ? ワタシ、テン ヲ アイシテイル」と言うと、「オー、ミスター。アナタ、アタマ イイネ」と応え、もう一度、カウント開始。

さすがに今度はチャンと十まで数えてくれたのだったけど、さすがに笑えてしまった。まさか、エジプトで古典落語の時そばが聞けるとは思わなかったからだ。

後で思ったのだけど、この手口で観光客が結構だまされていたんだろうなあ。一応、相手は国営銀行なのだけどね。