第30話 手作りのプレスカードで…

東欧革命、湾岸戦争と取材中にいつもあれば便利だと思えるものがあった。

それはプレスカードのだが、どういう訳か、朝日を含めて日本の新聞社にはない。あるといえば、英語の写真付き社員証明書。どこにもプレスと書かれていない。

「以下の者は朝日新聞社員であることを証明する」という意味のcertificateという文字が印字されているだけだ。日本新聞協会発行の英文の身分証明書も然り。Pressという文字はどこにも見当たらない。

Pressという文字は分かりやすい。一目で「ああ、報道関係者だ」と分かる。唯一、東京写真記者協会Tokyo Press Photographers Associationや北海道写真記者協会Hokkaido   Press Photographers Association発行のカードにはPressという文字がうかがえるだけだ。

Certificateと書かれた三つ折の証明書をことあるたびに見せるのだが、どうも先方には要領がえられないようだった。

そこで私は海外出張の時にプレスカードを自作しようと思い立った。

国際貢献取材の担当になった時(一九九一年)、出発直前にプレスカードを部内で作り始めた。英語のアルファベットレタリングシートを買ってきて、適当な厚紙にPressCardと貼っていった。名前、会社名、有効期限などにも活字の大きさの違うシートを貼った。

たまたま作業を見ていた先輩が、「おお、そうやなあ。何で新聞社にプレスカードがあらへんのや」とやはり海外取材での不便を感じていたらしく、大阪弁で話しかけてきた。

「そうなんですよ。ですから今、こうして手作りでやっているんですよ」と私は受け答えをして、オーソライズされるべき署名欄のサインを先輩にしてもらった。

出来上がったプレスカードは十センチ×五センチほどの大きさ。出来映えを確かめていると、先輩から「それ、いかにも嘘っぽいで」と言われてしまった。かといって作り直す時間もあまりなかったので、薄いプラスチックでカバー(パウチ)して海外に持っていった。

最初の入国はフィリピン。当時は社会主義国など一部の国をのぞいて、いちいち取材用ビザを取得する必要がなかった。入国審査官に手作りプレスカードを見せると、「プレスか。どこの新聞社だ」となぜかニコニコ顔で対応してくれた。税関審査でも、いろいろ機材など面倒なものもあったが、プレスカードを見せると、「OK 」と何も検査することなく通してくれた。

ちょっと嘘っぽい手作りカードながら威力は絶大。別の国でも、取材ビザが必要なバングラデッシュの入国用の申請時にも威力を発揮した。

帰国して先の先輩に話をすると「そうか。なら次にもっといいものを作ろう」と先輩は即座に反応してくれた。

ある日、先輩はどこから仕入れてきたかしらないけど、いかにも本物らしいPressCardを持ってきた。名前と会社名など書き込めばいいだけとなっていた。

「どこで、そんなの売っているんですか?」と聞くと、詳しくは教えてくれず、「学生証もあるで」という。

何か、偽造しているようで後ろめたい気持ちとなったが、嘘をついているわけではないので、それに写真を貼ってプレスカードに仕上げた。

本物そっくりで感じがいい。(くれぐれも、偽造ではない。会社にないものを自分たちで作っただけ)。

とはいうものの入国の際にこのプレスカードを見せる時は、いつもドキドキしていた。